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相続ルール大改正②~居住用不動産の夫婦間贈与の優遇措置

2018年(平成30年)7月に 「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」と「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立しました。

その改正内容と影響などについて考察していくシリーズになります。

第2回は居住用不動産の夫婦間贈与の優遇措置です。

改正のポイント

はじめに改正のポイントをまとめました。 

【改正のポイント】

  • 婚姻期間が20年以上である夫婦間で居住用不動産の遺贈又は贈与(贈与等)がなされた場合については、算定した相続分の中からその贈与等の価額の控除を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。
  • 結果として、原則、遺産分割における配偶者の取り分が増えることになる。

改正によって何が変わるの?

これまでの贈与等との比較

今回の改正によって何が変わるのかを見ていきます。

まず「贈与」について。

贈与は「当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。(民法第549条)」と定められています。

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さらに贈与の類型として次の3つが規定され、それ以外の贈与は通常の贈与とされています。

  1. 定期贈与 (民法552条)
  2. 負担付贈与(同 553条)
  3. 死因贈与 (同 554条)

改正前のそれぞれの内容と特徴を整理すると、次のとおりとなります。

種類

定期贈与

負担付贈与

死因贈与

通常の贈与

内容定期的に一定額を贈与。受贈者(贈与を受けた人)に一定の義務を負わせる贈与。贈与者(贈与する人)の死亡によって効力を生じる贈与。左記3種類以外の贈与。

特徴

贈与者又は受贈者の死亡によって失効。受贈者が義務を履行しない場合、贈与者が贈与契約を解除できる。死因贈与は贈与ではなく、相続の対象財産となる。(よって贈与税ではなく相続税の課税対象)贈与の都度、贈与契約を結ぶ。

この死因贈与については、民法上「遺贈」の規定が適用されるため、原則として遺産の先渡しを受けたものと取り扱われます。(なお、通常の贈与も同様に扱われます。)

このため、贈与された財産が遺産相続できる財産価額に組み込まれ、結果的に他の相続財産分を圧迫する形になるのです。

こうなると、被相続人(=贈与者)がせっかく贈与したのに、相続時に反映されないことになります。

今回の改正は、婚姻期間20年以上の配偶者であるなど、一定の場合には相続財産とみなす必要がなくなり、結果的に配偶者が他の相続人よりも多くの財産を取得できるようになります。

改正内容の検証

では、具体的にどのように優遇措置が設けられるのかを、民法の該当条項を確認しながら見ていきます。

まず、改正前の「特別受益者の相続分」の条文は次のとおりです。

民法第903条 

1 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

2  遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。

3  被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。

 

e-Gov法令検索より

これが改正され、次のとおりとなります。

改正後 民法第903条

1~3 同 上

4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

e-Gov法令検索より 

改正後の第4項の追加によって、次の条件を満たせば優遇措置が受けられることがわかります。 

婚姻期間が20年以上夫婦間の遺贈又は贈与(贈与等)であること

◎その居住の用に供する建物又はその敷地を贈与等をすること 

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ここで、ファイナンシャルプランニングの勉強している方なら、ピンとくるかもしれません。

この要件って「贈与税の配偶者控除」ととても類似しているんです。

「贈与税の配偶者控除」

【概要】
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)できる。

【要件】
夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与
・配偶者から贈与された財産が、 居住用不動産であること又は居住用不動産を取得するための金銭であること
・贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した国内の居住用不動産又は贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること

このため個人的には、この税制上の特例を受けた人が、いざ相続となった時に「相続財産の中に税制上の配偶者控除を受けた財産が再度加算されてくる」ということに対して、制度上の整合性を取ったものではないかと勘ぐっています。 

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実際に適用された場合の違い

では、改正前と改正後について、配偶者の最終的な財産(=贈与+相続)の取得額の違いを見ていきます。

ケースとしては、法務省のパンフレットの事例を基に少し変えています。

被相続人:Aさん
相続人:Aさんの配偶者(妻)と実子2名(長男と長女)
    法定相続分は、Aさんの妻が1/2、実子が各1/4
遺 産: 居住用不動産(持分2分の1) 1,500万円(評価額)
    その他の財産 6,000万円
生前贈与:配偶者に対する居住用不動産(持分2分の1) 2,000万円

配偶者の相続財産(改正前)

現行制度では、生前贈与された妻に対する居住用不動産(持分2分の1) 2,000万円は相続時に相続財産とみなされます。

↑クリックで拡大↑

このため、相続財産は、Aさんの遺産+妻の生前贈与分が含まれます。
相続財産=1,500万円+6,000万円+2,000万円=9,500万円

これをAさんの妻の法定相続分で分割すると、
9,500万円×1/2=4,750万円

ただし、Aさんの妻は既に2,000万円の生前贈与を受けているのでこれを控除しなくてはいけません。
4,750万円-2,000万円=2,750万円

Aさんの妻の最終的な相続額は、生前贈与の2,000万円と合わせて
2,750万円+2,000万円=4,750万円

配偶者の相続財産(改正後)

一方、改正後は、生前贈与された妻に対する居住用不動産(持分2分の1) 2,000万円は相続時に相続財産とみなされません。

↑クリックで拡大↑

このため、相続財産はAさんの遺産のみ。
相続財産=1,500万円+6,000万円=7,500万円

これをAさんの妻の法定相続分で分割すると、
7,500万円×1/2=3,750万円

Aさんの妻の最終的な相続額は、生前贈与の2,000万円と合わせて
3,750万円+2,000万円=5,750万円

改正前に比べると、最終的な相続額が1,000万円増えることになります。

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おまけ FP試験での想定問題

今回の「居住用不動産の夫婦間贈与の優遇措置」の施行日は2019年7月1日施行となっています。

このため、ファイナンシャル・プランニング技能検定の法令基準日から考えると、2020年1月試験から出題される可能性が高いと思われます。

なお、きんざいの1級実技試験については、原則として試験日現在施行の法令等に基づくことになっていますのでご注意ください。

正誤(〇×)問題で出題される場合のパターンを考えてみました。
(あくまで僕の予想です。回答についても責任を負うものではありません。)

【難易度 ★】

① 「居住用不動産の夫婦間贈与の優遇措置」を受けるためには、20年以上の婚姻期間が必要である。

【難易度 ★★】

② 「居住用不動産の夫婦間贈与の優遇措置」の居住用不動産には、建物は含まれるが、その敷地は含まれない。

【難易度 ★★★】

③ 「居住用不動産の夫婦間贈与の優遇措置」が受けられるのは、贈与税の配偶者控除の特例の上限と同様、贈与時の評価額が2,000万円までの不動産である。

回答はこちら。

① 〇

② × 

③ × 相続の優遇措置については金額の上限はない。

最後の予想問題はあくまで参考までです。

外れても悪しからずご容赦くださいね。

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